「ミチルト」ディレクター 小川テラさん インタビュー
何を感じて、どう生きる?芸術のあり方を再確認
「社会運動から社会芸術論へ」
※FM4649マスコットキャラクターおにゃん(写真右)
~ミチルトとは~
様々な楽器を操るマルチミュージシャンAki-ra Sunrise、フリーセッションギターリスト築山建一郎の音を軸に舞踏芸術家 鉄秀プロデュースの舞踏「EGGORE」+音を光に変えるVJのHiraLion+映像ディレクターの小川テラの5人で2013年に結成されたNeonaitive Hardcore Drawing team「ミチノト」の舞台名である。
ミチルト PV- EGGORE meets HiraLion
---------------------------------
~舞台芸術「ミチルト」の経緯~
2010年からジャーナリズムとして金沢で市民メディア「FM4649」を仲間達と立ち上げて、エコ、反原発・政治・社会・平和運動などの情報を紙媒体やWEB・ユーストリームで配信したり、アースデイなどのイベントを企画して、伝えることにより、より良い社会を目指して活動てきました。
僕個人としては原発関連の問題に力を注いできました。
3.11で原発事故が起こったとき、反原発の運動してきた人達は「それ見たか!これでマスコミも暴かれて日本は変わるぞ!」と思っていたと思うんです。
事故後すぐに週刊誌の報道は変わりました、特に週刊現代は衝撃的でしたね。「ヤバイ!原発!」「政府は間違っている!」とか政府批判やマスコミ叩きが始まって、「おお、これついに来たー!」と思っていたんですけど、NHK・民放・大手メディアの動きは鈍くて・・・、動揺は感じられたんですけど結局何も変わりませんでしたね。
友人知人に真実を伝えようとしても・・・福島、東北、東京でも放射能の危険に気付いた人はもう避難してるし、向こうに留まっている人は「もうしょうがないし。」みたい姿勢で・・・。
僕の姉も東京にいるんですけどね。
そうなってくると反原発や放射能のことをあんまり言えない空気になってきて・・・、原発問題で怒ってるのがダサいみたいな感じですよ。
友人から「もうそういう発言しない方がいいよ。」とかアドバイスもあったりして・・・。
テレビではまた普通にバラエティ番組が放送されていたりして、オリンピック開催yeah!みたいな流れじゃないですか・・・。
僕の活動の原動力は真実を伝えないメディアや情報を知っても行動に移さない人達への「怒り」でした。
人にもっと真実を知ってもらいたいと思って活動を続けていたんですけど、「人は知っても全然行動に移さないんだ・・・。俺の考えは間違っていたんだ。」と思って、自分がやっていることが何かアホらしくなってきたんです。
そんな僕に「EGGORE」のプロデューサーである鉄秀さんがこんなことを教えてくれたんです。
『悪いことを含め、起きていることは全部自分のこと。例えば自分の体に癌細胞があって、それに対して「悪い。怖い。やめろ。」とか責めても、それは自分の体の一部だから無くならない。そうするよりも健全な機能をしている細胞をもっと活性化させて、体全体の機能を上げていった方が良い。』
悪い部分から目を逸らさず受け入れた上で、健全な機能であるアートやパフォーマンスなどをもっと活性化させて、間接的に悪い部分も改善していこうというのが、今回のミチルトのテーマです。
マスメディアは原発などの悪い部分から目を逸らしているのがそもそもの問題なんだと思います。
福島周辺では放射能の被害でたくさんの死者が出ていますが、全く報道されませんし。
実際、多くの人が「海洋汚染とかヤバイよね、空気からも来てるよね・・・でも食べないって言うのも・・・。」と話していて、無視している訳ではないんだろうけど、現実的な生活を考えると中々行動に移せないのが実情。
「汚染問題はずっと気になっているけど、政府や企業や大きいところは動かないし・・・。」という諦め感もある。
それで僕がいかに原発や放射能が危険だと情報を発信したところで、もうあまり効果がないと思ったんです。
今まで反原発の活動をしてきた人は活動から離れて行って、福島の支援や東北の子ども達の保養の支援、移住者の支援へ力を注いでる人が増えてきました。
もし自分の家族が放射能で体調を崩したら、家族の看病をするでしょうし、いつまでも「原発反対!」とかやってられないと思いました。
けど、僕がここで活動を辞めたら、今まで何をやっていたのか分からない・・・。
それで僕に何か出来ないかと考えたときに、芸術から何か伝えられるんじゃないかと思ったんです。
そして、演舞「EGGORE」と、VJ「HiraLion」の共演作品、舞台芸術「ミチルト」をすることにいたりました。僕はディレクターと映像を担当しています。
~ただ問題だけを突きつけられても、人はどうすればいいのが分からないですし、逆に問題自体を無視するようになってしまいますよね。だからこれからはいかに伝えていくかが大事だと思いますが、小川さんはどう思われますか?~
以前妻が経営しているカフェに設けてあるレンタルスペースで、鎌仲ひとみさんの原発のドキュメンタリー映画「六ヶ所村ラプソディー」の上映会を開催したんです。その時カフェ側が原発映画の上映を嫌がったんですよね。
カフェに来るお客さんは純粋に食事を楽しみに来ていて、「デトックスいいねー。」とかは何となく思っている人はいても、「放射能がヤバイ・・・!」とか聞くと引いてしまうんですね。だから普通のお店で原発映画の上映はサービス業としては駄目なんだと気付かされましたね。
そしてカフェのあり方、映画や芸術のあり方を考えさせられました。
僕が思うにフランス映画って一言で「暗い」って片付けられたりするけど、淡々としたストーリーの中で人の心理が描写されていて、敢えて終わりがはっきりしないように作られている。そしてフランス人は映画を見た後にカフェでその内容を語るんですよ。そうしてカフェが機能している。
フランス映画はそんな美学を売りにしていると思うんです。
だから感受性豊かでないとあまり楽しめなかったりする。
日本ではハリウッド映画のような起承転結があって、「結論ドン!はい、ハッピーエンド!」みたいな映画が流行ってますけど。
僕がイベントなどで映像とか担当してたりすると、「何か暗い・・・。」みたいな言われたりするんですね。
それで「暗いから見る価値なし。」みたいな押印を押されてしまうことがある。
それが現実の問題でもそうなっていて、もしテレビで社会問題を放送していたら、「この番組は暗いからチャンネルを切り替えて、AKBやジャニーズが出てる音楽番組観よう。」ってなってるんですよ。
僕の場合は逆にそういう明るい映像を観ているとテンション下がるんですけどね。
もっとフランス人のように感受性を上げて、日本人の芸術に対する感覚がもっと研ぎ澄まされていくといいと思うんです。
そうすることで社会への問題意識が上がって、それについて考えて語るようになって行動に移していけば、世の中変わっていくと思うんですけどね。
~なるほど。そもそもテレビなどの情報を鵜呑みにしている人が多いですよね。最近だと山本太郎さんが天皇に直接手紙を渡した問題だとか・・・~
少し前に家族が集まる機会があったんですけど、その時に山本太郎さん話をしたんですね、そしたら親父が「いや、あいつは失礼だ・・・・・。」と。
「え”ー!」いやーもうびっくりしましたよ。
僕はずっと反原発運動などをしてきているし、家族に原発のことを話していたら「なるほどなー。」とか言ってた人達が「いや、あれはね・・・・。」って、いきなり自分の意見を持っているんですよ。
何この浸透度!まるっきりテレビのコメンテーターが言っていることをいかにも自分の意見かのように・・・。
僕は全然テレビ観ないんですけど、マスメディアはあの問題をかなりやっていたみたですね。
親や兄貴はずっとテレビ観ているし、そりゃああなってしまいますよ。
~マスメディアの情報操作にはびっくりしますよね~
「山本太郎は非国民だ。」みたいになってますよね。
あれは山本太郎さんが悪いとか云々じゃなくて、メディアの作り方とかコメンテーターの論調の統一の仕方にびっくりします。
みんなはテレビを観て、「前向け前!」で、みんな前向いちゃってるんですよね。
もっと彼が今までやってきたことをみて欲しいんですけどね。
国会議員になれたのだって、彼の今までの行動の実績が評価されて票を得られたからですから。
一つの情報を鵜呑みしないで、もっと視野を広げて全体を見れたらいいんですけどね。
~社会運動などをしていると大変なこともあるんじゃないですか?世間では出る杭は打たれる風潮がありますし~
僕がFM4649で会社を起こそうとしたときは大変でしたね。色んな法律がありますし、税金の取り方もすごいです。
FM4649は自由意志で集まっていますが、会社である以上はある程度の経済的な保障がないとみんなの生活に支障が出るので起業は諦めました。
人が集まれば集まるだけ税金は持っていかれるし、法律も複雑で会社化しても良いことないと思ったんです。
それに団体のリーダーをしていると、仲間が僕に頼って思考を止めたり、行動を起こさなかったりする場合がありました。
それって何か違うんじゃないかなと思って・・・。だから僕は個人起業家が集まって何かする方がいいと思いましたね。ライオンズクラブとか良い例で。
社会には色んな問題がありますよね、環境問題、原発、戦争、いじめや人種差別とか人権問題・・・・。
それぞれの部門でみんなが出てきた問題を一生懸命解決しようとしていますが、それよりもっと根本的な原因を解決を目指した方が良いと思うんです。
ただ、今の社会構造的にそれぞれが専門家されし過ぎていて、それぞれの問題を理解するのもみんなが一致団結するのも難しいと思います・・・。
~色んな問題を社会学的な視点で見ていますね~
実は大学では社会学を専攻してました。
けど社会を知りすぎると現実が嫌になって・・・数年前までトランスミュージックのDJをしたり、イベントを企画したりしていていました、そんな時「俺何やってんだろ?」って思ったんです・・・。現実が嫌でそれをしていて、それで皆に夢見せたいとか思いつつも、実際はただそれに溺れていて、そういうのが嫌で社会運動を始めたんです。
そして今また、舞台芸術というエンターテイメントをすることになって、それは現実を忘れるツールを作ってるような気がして・・・、実は自分の中で大きな葛藤があります。
「ミチルト」が物事への感受性を高めるきっかけになって、みんなが原発問題や様々な社会問題にもっと関心を持ってくれれば嬉しいですね。
それを少数の人でも感じていただければ、僕は心の葛藤から開放されそうです。
みんなが暮らしやすい平和な社会の訪れを心から願っています。
---------------------------------
現代の超物質社会では人間が持つ本来の力はどんどん低下しているように思える。
移動は車や公共機関、体温調整はエアコン、食事は外食やコンビニ、洗濯は洗濯機、手紙はemail、会話は電話、情報はテレビやインターネットから・・・・。例えを上げればキリがない。
ものすごく便利なのは確かだが、その反面とてつもなく不健康に思える。
物質社会以前の人はもっと健康で、自然と共生していて、もっと自然を感じていたのではないだろうか。
食事を例に現代と現代以前を比較すると、以前は肉が食べたければ狩りをしていたであろう。狩りをするにはまず獣の習性を把握する必要がある。そして臭いを嗅ぎわけ、耳を澄まして、目を凝らして、気配を感じて狩りをする。
野菜を採取するときは食べられる野菜の旬や季節を把握ししていなければいけないし、育てるにしても自然を感じていなければ上手く作れないであろう。
そして現代人はどうだ?
スーパーに行けば何でも買える。
弁当を食べたり外食すれば、料理すらしなくていい。
ほぼ何も考えずに食事にありつけてしまうのだ。
そう考えると現代社会の生活は危うい。
自然を感じずに暮らし、便利になり過ぎたこの社会では人は人間本位で自己中心的になりがちであり、物事に対する感受性が低下しているように思う。
本来道具というのは人間の能力を上げるものだと思われるが、逆に能力を下げるというパラドックスが生じているようだ。
もう物なしでは生きていくことは出来ない人がほとんどなのかもしれない。
そんな物質社会は人間の能力への悪影響だけでなく、地球環境をどんどん汚染している。
感受性が低くなった我々現代人はいつそのことに気付けるのだろうか。
今の社会がこのまま続くと将来、人間は、地球は・・・・。
どうなるかは創造にお任せしよう。
インタビューで話していただいた「悪いことを含め起きていることは全部自分のこと。そこから目を逸らさず受け入れた上で、良い部分をもっと活性化させた方が良い。」
ポジティブで気持ちの良い発想だ。
個人の問題、環境、社会・・・様々な問題に対し、この発想で取り組めば社会は良くなっていくように思える。
そしてその変化は芸術から始まる・・・。
感覚を研ぎ澄まし、人間本来の能力を取り戻す。
いつの世もアーティストは平和を、社会問題の解決を訴えてきた、ジョンレノンが、マイケルジャクソンがそうであったように・・・。
私は実際に「ミチルト」を観たが、音、映像、臨場感、メッセージ性に圧巻された。
この作品は実際に観てみないとわからない凄さだ。即興でパフォーマンスをやってのける彼らは本物中の本物である。
2014年辺りから「ミチルト」中毒者が急増すること間違いない。
11月29日(金)に大阪で講演が行われるが、チケットは既に完売している。
今回逃しても次の機会は是非観て頂きたい。本当に凄いから。
そして何かを感じて欲しい。
FM4649.NET http://fm4649.net/
EGGORE http://www.eggore.com/index.php/ja/
AKI-RA Sunrise http://aki-rasunrise.com/
Hiralion http://hiralion.tumblr.com/
「ミチルト」ディレクター 小川テラ(おがわ てら)
1979年生まれ。金沢出身、京都在住。
01年ヨーロッパの旅でトランスミュージックに衝撃を受け、名古屋でDJ活動を開始。結婚式の音響を経て空間デザインへと活動をシフト。07年お祭り「山水人-yamauto」で会場内ラジオ局に参加、インターネット配信を開始。10年金沢でFM4649.NETを有志と立ち上げ、市の環境政策の一環でフリーペーパーを発行し幅広いイベントで撮影・配信・編集を手がける。”社会芸術論”に辿り着き、「ミチルト」Neonative Hardcore Drawing Team「ミチノト」を生み出した。